司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.60『言葉選びⅢ』2023年3月

コラムVol.60『言葉選びⅢ』2023年3月

コラムのナンバーを見てびっくりしました。そして、しみじみ…。すぐに書き続けられなくなるだろうと不安な気持ちでコラムを始めたことを覚えています。それが不思議と書きたい事は尽きる事がありませんでした。また、書く事で仕事への探究心にも繋がりました。そのお陰か、ますますこの仕事を好きになりました。継続は力なり。これからも自分の感じた事や考えを、コラムにして伝えていきます。

言葉を選ぶ

先日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げを予定していた新型ロケット「H3」が発射を「中止」しました。その後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が行った会見中、JAXA側が一貫して発射できなかったことを「中止」と説明したのに対して、記者が「一般にいう失敗なんじゃないか」と繰り返し問い続け、最後に「わかりました。それは一般に失敗といいます。ありがとうございます」と切り上げた、と話題になりました。「中止」か「失敗」か。どちらの言葉を使うかは、使う側が決めて選びます。その業界の常識や専門の知識がないとどう捉えるかの判断がつかないこともあります。それに対し「一般に〜といいます」と否定してしまう事には、とても違和感を感じました。記者に対しての批難がたくさんあったようです。

事実と立場と相手を敬う心

発射を「中止」した事は事実です。現時点でそれを「失敗」としない理由を理解し、JAXAの立場を尊重していたとしたら、一般論をぶつけて否定する事は出来なかったと思います。一方、記者の立場を考えたら、相手に切り込んでより詳しく正しい情報を世に伝える使命感で仕事をしていらっしゃると思います。時には、記者の突っ込んだ質問にボロを出し、偽りや不正が暴かれることもありました。今回も、なにかしら詳細情報を引き出したい気持ちがあったのかも知れません。ただ、相手に対する敬意を感じられない表現をされたのは、残念に思います。

今回話題になったこの一件は、言葉を生業とする私にはとても考えさせられるやりとりでした。

森藤りか