司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.43『きくチカラ』2021年10月

コラムVol.43『きくチカラ』2021年10月

曖昧な言葉遣いに翻弄されることがありました。90歳を超える母が「あんまりご飯が食べられなくなった。」と言うので心配になり病院で検査をしたところ、どこも悪いところはありませんでした。そしてその後、「何食べたい?」と訊くと「お寿司にするかねぇ。」と毎回言うほど母の好きなものはお寿司ですが、食べられないと言いながら、7貫をペロリ。そして、ある時は「お水を飲み過ぎて、お腹がいっぱい。」と言うので、2時間程前に買ったペットボトルを見ると、まだ容器の肩より上までお水が残っていました。『きくチカラ』を持たねば…

『きく』にもいくつか種類があります。

聞く、聴く、訊く。英語にするとその意味の違いがよくわかります。
hear(聞く)自然に耳に入ってくる声や音を感じ取る。
listen(聴く)注意して耳を傾ける。
ask(訊く)尋ねる。

この3つの『きくチカラ』をどう使っていますか?
相手の伝えたい内容をしっかり受け止めるには、(聞く)ではなく(聴く)ことが大切です。そして、話を聴いて終わらず、相手に要点を確認する(訊く)という行動で、考えている情報が統一されさらに、しっかり受け止めたという所に辿り着きます。

曖昧な言葉に翻弄されないために

「あんまりご飯が食べられなくなった。」と聞いて、正直、慌てました。「そりゃ大変だ。ご飯が食べられなくなったらもう末期じゃないの?!」と。後から思えば、「あんまり」って、どのくらいのことを言うのでしょう。とても曖昧な言葉です。今まで人一倍食べていた人があんまり食べられなくなっても、きっと大したことないでしょう。例えば、ご飯茶碗に半分くらいとか、3食が1食になったとか、もう少し具体的に訊けばよかったと思いました。楽しそうにお寿司を食べる姿を見ていたら、ただこういうひとときが欲しかったのもあるのかなと母の笑顔から聴こえて来たような気がしました。

『きくチカラ』を鍛える方法

相手の伝えたいことを最後までしっかりと聴くことから始まります。途中で遮って質問したり、先回りをして自分が話し始めたり、すぐに否定してしまったり、決めつけてしまったりをまずやめることです。「じぶんの話は聴いてもらえない。理解してもらえない。どうせ否定される。話しても無駄。」こうなってはコミュニケーションの取りようがなくなります。互いに尊重し合えてこその信頼関係です。相手にしっかりと聴いていることを伝えるためにも、相手の方へ体や視線を向け、頷いたり相槌を打ったり、表情や身振り手振りなどで反応をするのは、基本的なことです。相手が家族でも同僚・上司・後輩でもお客様でも友人でも、相手に興味・関心を持って、よく相手を観察し、得られた情報をストックしておくことが大切です。その情報は、言葉はもちろんですが、非言語の情報も重要です。その積み重ねで『きくチカラ』がパワーアップしていくでしょう。

そういえば、少し違いますがこんな『きくチカラ』もあります。「唎酒・利き酒」。ある意味…お酒との対話ですかね。

森藤りか