司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.46『きくチカラⅣ』2022年1月

コラムVol.46『きくチカラⅣ』2022年1月

新しい1年が始まりました。皆様のお仕事やプライベートでもお役立て頂けるよう、声と言葉に関するコラムを今年も一生懸命書かせて頂きます。コロナ禍で、大切な人とどう過ごすのか、本当に会いたい人は誰なのかを考えるようになった今、たくさんの愛溢れる言葉を声に乗せて伝えていきましょう。一緒に生きてくれている周りの方々が、幸せな気持ちになるようなコミュニケーションを重ねていきましょう。今回のテーマも昨年に引き続き『きくチカラ』です。

幼い男の子の言葉

1歳と3歳の男の子を持つ30代の夫婦と触れ合う機会がありました。1歳の弟くんは、まだほとんど話しませんが、ニコニコ笑顔で表情は豊かです。3歳のお兄ちゃんは、会うなりお父さんを紹介してくれました。そして、「僕ね、トト大好き。」と教えてくれました。
しばらく遊んでいるとお兄ちゃんが転んでしまい、でも、泣くのを我慢してお母さんの所へ駆け寄っていきました。お母さんは「痛かったのね。泣かなくてえらかったね。」とその子を抱き上げました。するとその子は、「僕ね、ママに抱っこして貰いたかったんだよ。」と言いました。
感動しました。母親でなくてもぎゅっと抱きしめたくなってしまいました。このお兄ちゃんの言葉選びは、天才的です。どうしたらこんな言葉が言えるのでしょう。頭から離れずに、ずっと考えています。
ご両親が普段からそういう表現を使っているのか、そういう絵本を読み聞かせしているのか、または子供向けテレビか教材からか、才能か。環境の中で男の子が学んで身につけたとすれば、それも『きくチカラ』があってこそです。

子育ての『きくチカラ』

兄弟あるあるですが、お兄ちゃんだからと、弟を優先される事もきっとあるでしょう。そこから兄としての自覚が芽生えたり、逆に甘える事を我慢するストレスから赤ちゃん返りしたり、親は子の心の声を聴き、心と身体のバランスをとりながら、子育てしていきます。他の人が聞いたら分からない赤ちゃん言葉も、親は理解できるようになります。泣き方の違いで、おっぱいなのか、おむつなのか、抱っこして欲しいのか、眠たいのかが分かります。これも『きくチカラ』です。何を伝えようとしているのか一生懸命分かろうとするから、分かるようになります。本来、この読み解く力は人間には本能的に備わっていると言われています。泣く子を目の前にして、ただ戸惑い、なんで泣くのか分からないよと思考のシャッターを降ろしたくなる時も子育て中にはあります。シャッターを降ろしてしまえば、受け取れません。興味を持って観察し、一生懸命耳を傾け続け、情報をストックする事で『きくチカラ』が養われていくのです。

心を動かす言葉を使いましょう

「僕ね、トト大好き。」「僕ね、ママに抱っこして貰いたかったんだよ。」この言葉の凄いのは、相手も聞いている周りも幸せにしている所です。そして、また一緒に遊んであげようとか、またぎゅっと抱きしめてあげようとか、この次の行動につながる言葉である所です。大人だって、負けずに使いましょう!
例えば、どなたかから何か頂戴した時、「ありがとうございます。」だけではなく、「私、これ大好きです!」「私、こういうの欲しかったんです!」という具体的な気持ちを表現する言葉を付け加えましょう。贈り主には、その言葉は嬉しいし、贈って良かったと思うはずです。その心あるキャッチボールが人間関係を濃くしていきます。

転んで痛い思いをした時は誰でも抱きしめて欲しいでしょう。それをストレートに「抱っこ!抱っこして!」と言いながら駆け寄るのではなく、お母さんに抱っこして貰った後、自分の気持ちを感謝を込めて言葉にしています。それが何とも健気で、きゅんとしてしまいました。大人の皆さんも応用して下さいね。

森藤りか