司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.30『大切な1通の手紙』2020年9月

コラムVol.30『大切な1通の手紙』2020年9月

いまは、メールでのやりとりが中心で、電話をかけることも減り、ましてや手紙を頂いたりするのはほとんどない、という人が大半ではないでしょうか。だからこそ、お礼状、季節のご挨拶、お祝いetc…手書きのお手紙を書くようにしたいと思っています。今回は、手紙にまつわるお話です。

大切な1通の手紙

ずっと大切に持っている1通の手紙があります。消印を見ると昭和60年、高校1年生の副担任の先生から頂いたお手紙です。
「早春の候 その後、お変わりなくお過ごしのことと思います。突然ですが、あなたの作文を読み、少し書いてみたくなった次第です。」
季節の挨拶から始まるお手紙を頂いたのは、これが初めてでした。しかも縦書きで、柔らかに流れるような万年筆の文字…大人になったような気分でドキドキしたのを覚えています。
私のためにわざわざ時間を作って下さった、私のことを想いながらこれを書いて下さった、その光景をも想像しながら、手紙というものの暖かさと重みを受け取りました。

30年以上経った今も…

そしてそこに書かれていた内容は、自分自身の人生をどう生きるかという話で、その時に全てを理解できるものではありませんでした。
「その道のりは遠い。が、たえず、道を探り続けることこそ魅力的ではないでしょうか。」と書かれていました。
お手紙は、一度読んで終わり、ではありません。
今まで何度となく事ある毎に、先生の想いを受け取ろうとしてきました。
何度も思い出しては読み返し、その度に少しずつ少しずつ、先生が伝えたかったことが分かってきたような気がします。それで、30年以上大切に持っています。
なるほど、「その道のりは遠い。」です。

人の心を動かすことが役目

手紙も、会話をするように、書くと良いと思います。そして、せっかくなら人の心を動かす文章を書きたいですよね。それは、司会で話す時も同じです。
この手紙には、私に伝えたい事がはっきり書かれています。そして、私にどうなって欲しいと思っているのかも伝わってきます。先生ご自身も私と同じように悩まれた時期があり、真実の言葉が並んでいます。経験者として教師として、人生の先輩として、心から伝えたいという想い人間味溢れる言葉で綴られています。心を動かされるはずです。
司会をする上でも、会話をする時にも、常に意識しているポイントがあります。
1 誰に
2 何を 伝えたいのか? (目的をはっきり持つこと。)
3 どうなってほしいのか? (相手の反応や行動を引き出せるかどうか。)
相手の反応を引き出すためには、これを読んだ相手、聞いた相手がどう感じるかと想像力を働かせながら言葉や表現を考えます。簡単ではない事ですが、なるべく詳細に具体的に思い描くことができたら人の心を動かす表現が出てくるはずです。

人前で話すのが苦手な方へ

日記を書くことをお勧めしています。身の回りで起きたことや自分の気持ちを文章に書いて下さい。ルールとしては、1回にひとつの内容しか書かないことです。色々書こうとせず、ひとつのことにじっくり向き合って表現してみるのです。100文字から150文字までの短い文章で良いです。そして書いたものを読み返して、ちゃんと伝わる文章になっているか確認し、自分で添削して伝わる表現へと完成させます。出来ればそれを声に出して読んで下さい。
声に出してみると、音として喋りにくい言葉も出てきます。その場合は、別の言い方に変えられないか考えて下さい。そうすることで、自分が話しやすい表現が見つかります。これを続けてみると、自分の中で話の組み立てが出来るようになります。話すように書く、書くように話す、です。

時間をかけて想いを文字にしたためる。たまにはいかがでしょう。

森藤りか