司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.52『きくチカラⅩ』2022年7月

コラムVol.52『きくチカラⅩ』2022年7月

「吝かではありませんが…」これ、何と読むか分かりますか?文の下に口…?最近では、ビジネス会話をLINEやメールでもやり取りしますよね。そして、勝手に予測変換機能で、自分でも知らない漢字に変換されている事もあります。「吝かではありませんが…」最近言われたこの言葉について書かせて頂きます。

やぶさかではありませんが…

使った事ありますか?または、言われた事はありますか?なかなか少ないと思います。まず、「吝か」やぶさかの意味を調べると、
(1)物惜しみするさま。けちなさま。しみったれ。
(2)躊躇するさま。未練があるさま。思い切りの悪いさま。
(3)(「…にやぶさかでない」「…にやぶさかならず」などの形で)
   …する努力を惜しまない。喜んで…する。とあります。
「吝かではありませんが…」は「やぶさか」を否定しているので、何かをする努力をためらわない、喜んでする、ということになります。

誤用する人が多い言葉

ある調査では、(仕方なくするという意味だと思っている)人が半数近くいて、(分からない)と回答した人が14%だったそうです。
「やぶさかでない」は、直接的な主張をせずにその逆の意味のことを否定する表現方法で、「ない」と言う否定形を使うため、その響きから勘違いをしてしまう人が多いのです。積極的な気持ちをまっすぐに伝えるには,少し使いにくい言葉かも知れませんね。

伝わってこその言葉

「喜んでやります!」というもっと直接的な他の言い方を選ぶことも出来るはずなのに、あえて「吝かではありませんが…」という言葉を使うところにも、それはそれで何かしらの意図があるのではとも考えてしまいます。
「吝かではありませんが…」という言葉は、「やぶさかでない」と言った後に「…けれども」「…がしかし」が続く使い方がよく見られます。積極的な姿勢をアピールしたいものの、何かしらの制限や条件、ためらいや留保があるような場合に用いられる傾向があると言えます。消極的な言い方をしたくはないけれども、はっきりと分かる前向きな表現も使いづらいという曖昧さの表れだと感じます。それを奥ゆかしさと言うのでしょうか?私が私がと自己主張をするのではなく、私でよければやりましょうと遠回しにやる気を表明するという、古き良き日本人としての精神性も含んだ言葉ですね。

森藤りか