司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.16『雨』2019年7月

コラムVol.16『雨』2019年7月

季節は梅雨。雨降りは鬱陶しいと思う事もありますが、「雨」が降ると思い出す人、思い出すシーン、歌いたくなる歌があったりしませんか?また、五月雨、甘雨、狐の嫁入り雨、小糠雨、小夜時雨、涙雨…『雨』に関する言葉も数えきれないくらいあります。私たちの暮らしや感情をよりドラマチックに潤わせてくれる『雨』について書きたいと思います。

「梅雨」の語源

6月から7月にかけて降る長雨を「梅雨」(つゆ)と呼びますね。
「梅雨前線(ばいうぜんせん)」「梅雨入り・梅雨明け(つゆいり・つゆあけ)」「入梅・出梅(にゅうばい・しゅつばい)」
入梅前に降る雨「走り梅雨」(はしりづゆ)、雨が少ない梅雨を「空梅雨」(からづゆ)「旱梅雨(ひでりづゆ)」など「梅雨」(つゆ)に関する言葉だけでもたくさんあります。「梅雨」(つゆ)の語源は、梅の実が熟す頃に降る雨から来ているそうです。また、毎日雨が降るので「梅」の字のつくりの「毎」も意味があっていて都合が良かったようです。

そもそも中国から「梅雨」(メイユー)や、「黴雨」(ばいう)という言葉で入って来たそうです。「黴雨」はカビが生えやすい時期という事で、黴(カビ・ばい)の雨。日本では、カビの雨だと語感が悪いので、「梅雨」と言う字があてられたと言われています。漢字のままに読むのなら「ばいう」ですよね。これを「つゆ」と読むようになったのは江戸時代だそうです。

儒学者であり本草学者の貝原益軒(かいばら えきけん)の指導のもと、甥の貝原好古(かいばら よしふる)によって編纂された「日本歳時記」があります。日本の民間の風俗や行事、二十四節気、そして折々の生活の諸注意や、和歌や漢詩、動植物の食用・薬効まで記されている「日本歳時記」ですが、その中に「此の月 淫雨ふる これを 梅雨(つゆ)と 名づく」 とあるそうです。「淫雨(いんう)」ずーっと降り続く雨、これはまさにこの季節の長雨のこと。

それを「梅雨」 (つゆ)と名付けると言っているのです。そうなると、今度は、なぜ(つゆ)と読むのか?ですよね。雨上がりに草の葉にたまる水滴「露(つゆ)」。梅の実が熟す「つはる」そして潰れる時期だから「潰ゆ(つゆ)」。カビが生え食べ物が痛むので「潰える」「費える」「弊える」から(つい)ゆ。と、これも諸説あるようです。

『雨』と言えば、あの歌… あの映画…

『雨』を歌った名曲はたくさんあります。『雨』が降ると口ずさみたくなる歌は何ですか?お年頃がわかってしまいますが、私の場合は、雨(森高千里)、雨の物語(イルカ)、人魚(NOKKO)、Squall(福山雅治)、レイニー ブルー(徳永英明)、ENDLESS RAIN(X)… ですかね。

では、映画の名シーンで思い浮かぶ『雨』は、いかがでしょう?

1番は、Sing'In In The Rain(映画「雨に唄えば」のテーマ曲)。 ジーン・ケリーが土砂降りの雨の中、歌いながらタップダンスするシーンです。タップに合わせて地面の雨水が跳ねる様子も楽しくて、土砂降りでもなにも構わない大きな動きで見ているこちらも陽気な気持ちになります。

2番目は、スティーヴン・キングシリーズ『ショーシャンクの空に』。 自由を手にしたアンディが雨に打たれながら両手を広げ、天に向かって叫ぶシーンです。降り注ぐ雨が、全てを洗い流してくれるのか、アンディへの賛美なのか、心に色んな想いが降り注ぎます。

3番目は、ニコラス・スパークス小説原作の『きみに読む物語』。良家の娘アリーと田舎町に住むノアの再会のシーンです。 『雨』の中だからこそ、より美しく印象的な映像として記憶にとどまっているのでしょうね。久々に、また観たくなりました。

まだ観ていないのですが、新海誠監督の『言の葉の庭』も知り合いに薦められています。 『雨』だから、どこへも出かけずDVDを観るのもいいじゃないですか。 さあ、DVDを借りて来なくちゃ!

『雨』をポジティブに捉える言い伝え

イベントや結婚式で、『雨』が降る事もあります。そんな時、司会者としても『雨』を良いイメージに捉えたお話をする場面がよくあります。

フランスでは「雨の日の結婚は2人に幸運をもたらす」という言い伝えがあります。神様がいる場所(天国)と我々がいる場所(大地)を結ぶ唯一のものは雨であり、雨そのものが神様の祝福を表していると言われています。その雨と一緒に天使が舞い降りてくるという話もあり、ヨーロッパらしいおしゃれな言い伝えです。また、新郎新婦が一生涯に流す涙を、神様が代わって流してくれるという素敵な言い伝えや、雨粒は神様が遣わした天使だという伝説もあるようです。

日本にも昔から、「雨降って地固まる」ということわざがあります。雨が降ったあとは、かえって土地が固く締まりよい状態になる意味から、明るい将来が見えてくるような感じがしてなんだか安心できますよね。また、雨が「降る」→「降り込む」→「振り込む」→「幸せが振り込む」という言い伝えもあります。

イタリアでは、「雨に濡れた花嫁は幸せになれる」という言葉があります。イタリアでは作物の栽培に欠かせないものであり、雨が降った土地は土壌がよくなり、『雨』は繁栄を示すことからそう言われています。そして、ハワイにも「No rain, No rainbow」という言葉があります。

このような言葉を知っていると、雨の日のイベントや結婚式も、悪くないかなと少しポジティブに捉えて頂けます。

五感を磨く

先日たまたま見かけたある雑誌で「美しきかな、ニッポンの雨」をテーマに日本画と俳句の特集がありました。そこで知って驚いたのは、『雨』を線で描くようになったのは、江戸時代中期の日本画が始まりだという事。

浮き世絵師、鈴木春信の「夜雨宮詣美人図」に斜めの線を入れて雨を表現しました。その後、江戸時代後期の歌川広重の「東海道五拾三次」の「庄野」ほか3作で『雨』を描き、「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」という作品では斜めの線をずらして重ねて描きました。この作品は『雨』を描く事がなかった西洋絵画には、19世紀後半のフランスの印象派に影響を与え、ゴッホが模作を描いた程だそうです。

また雑誌では、日本画に描かれている情景がより鮮明にイメージできる組み合わせで俳句が添えられ、言葉の力の強さをあらためて感じました。

例えば、「空も地も ひとつになりぬ 五月雨(さつきあめ)」杉山杉風
降り続く『雨』で空も地も境界線が分からない程になっていて空と地が繋がっている感じがわかります。

「降る音や 耳も酸うなる 梅の雨」松尾芭蕉
『雨』の降る音を聞いて梅の酸っぱさを感じる?それも耳で?さすがです。

私も、『雨』が降る日には、『雨』の音を聴いたり、『雨』の中を歩いてみたり、『雨』を愛でて、五感を磨きたいと思います。

森藤りか