司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.19『司会のコツ・ことわざ慣用句活用術』2019年10月

コラムVol.19『司会のコツ・ことわざ慣用句活用術』2019年10月

先日、キャンペーンメールに心を動かされ、乗馬体験をしてきました。そこは、20代前半ラジオの取材でお邪魔した乗馬クラブで、私にとっては特別な場所でした。ウッドチップの馬場で取材車のキーを落としてしまい、探しても捜しても見つからないという苦い思い出があります。だからこそ、周りの方々に助けて頂いたり支えて頂いていることにあらためて感謝できる大切な場所なのです。

今回のコラムは、馬に乗ってみたら頭に浮かんだ、ことわざ慣用句について書きたいと思います。

馬に関することわざ慣用句

まず、今回の乗馬体験をレポートしてみます。

「天高く馬肥ゆる秋」、乗馬を体験しました。パートナーホースは、初対面のアルベル君です。対峙してみると想像以上に大きく、見上げる程のアルベル君の首に左側から手を伸ばし、恐る恐る撫でてご挨拶をしてみました。「馬の耳に念仏」なのでしょうか?反応がわかりません。しかし「馬には乗ってみよ人には添うてみよ」といいます。早速乗せて頂きました。アルベル君はさすがの「千軍万馬(せんぐんばんば)」で、慣れない私にも「馬が合う」心地よさを感じさせてくれ、最後には、「馬に乗れば唄心」の私でした。

220文字のレポートの中に馬に関することわざを6つも使いました。

「天高く馬肥ゆる秋」…空は澄み渡り、爽やかで過ごしやすくなり食欲も増して、馬も毛並みが良くなります。まさにこの季節になるとよく使うことわざです。

「馬の耳に念仏」…馬にありがたい念仏を聞かせても無駄なことから、いくら親身になって意見をしても効き目がないと言う意味です。

「馬には乗ってみよ人には添うてみよ」…馬の善し悪しは見た目だけでは分からないもので、乗ってみて初めて分かる。人も同様。何事も経験することでそのものの良さがわかるものだから、始める前から批判するのは良くないという戒めのことわざです。

「千軍万馬」…多くの軍兵と軍馬ですが、戦闘の経験が豊富であることから転じ、社会経験などを多くつんでいることを表します。

「馬が合う」…乗馬に由来して生まれた言葉で、馬と乗り手の呼吸がぴったり合うことから、性格や気が合うことを言います。

「馬に乗れば唄心」…馬に乗ると楽しくなり気持ちが高揚し唄を歌いたくなるということわざです。

なぜか馬に関することわざ慣用句はとてもたくさんあるようです。
「馬子にも衣装(人のことに使うと失礼にあたるので、自分のことで使います。)」「塞翁が馬(人間万事塞翁が馬)」「生き馬の目を抜く」など、まだまだたくさんあります。

司会でよく使う、季節や天候を表すことわざ慣用句

司会で、ことわざ、慣用句はよく使います。特に、オープニングの挨拶などで、その会の趣旨に合わせ季節や天気、旬のトピックスを盛り込みます。

今の季節なら、先程の「天高く馬肥ゆる秋」の他に「暑さ寒さも彼岸まで(お彼岸にあわせて春も秋も使います。)」「秋の日は釣瓶落とし」「小春日和」などを使います。

冬には、雪が降って足元の悪い中、その会に足をお運び下さった皆様の労をねぎらう気持ちも込めて「雪は豊年の瑞(ゆきはほうねんのしるし)」「冬来りなば春遠からじ」などを使います。

春には、「春眠暁を覚えず」「三寒四温」「春一番」「穀雨」
夏には、「五月晴れ」「蝉時雨」など。

昔と比べると季節感にズレや変化を感じることが増えていますが、情緒に訴える美しい日本の表現は出来る限り残していきたいと思っています。

言葉は一瞬にして消えてしまいます。その一瞬にどれだけ印象に残すかが表現の勝負です。よりイメージに残る表現のひとつとしてことわざや慣用句を使っています。

ことわざや慣用句に助けられるシチュエーション

一見、縁起の悪いことのように思えることも、ことわざや慣用句を用いると美化されます。情緒豊かになり、雰囲気がよくなります。また、言いにくいことでも、間接的な表現になるので少し柔らかく伝えられます。

例えば、結婚式などに雨が降ると、「雨降って地固まる」「雨粒と一緒に幸せも振り込んできます」と言います。

夫婦関係、親子関係の話では、「夫唱婦随」「親の心子知らず」「蛙の子は蛙」「鳶が鷹を生む」

きっかけの話には、「灯台下暗し」「百聞は一見に如かず」「魚心あれば水心」「好きこそ物の上手なれ」

駄目なのか良いのかの微妙な時、「袖に短し襷に長し」「残り物には福がある」「棚からぼた餅」「笑う角には福来る」

常に言葉を探しています。語彙が多いことは武器になります。
司会は言葉で会を司ります。会の雰囲気はどんな言葉を使うかによっても変わります。ことわざや慣用句も上手に使いこなしたいです。

同業の司会者の友人とお喋りしていると、「そういう言葉、なんか、あったよね?」「そういうの、ことわざでなんて言うんだっけ?」「…」「そう!そう!それ!」ってなるんです。こういう会話が楽しくて盛り上がってしまうのは司会者あるあるなんでしょうね。

森藤りか