司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.28『そうですけど…。けど、なに?!』2020年7月

コラムVol.28『そうですけど…。けど、なに?!』2020年7月

アイスクリームが美味しい季節になりましたね。我が家の冷凍庫にもいくつか常備していますが、ある日の母娘の会話を聞いて下さい。
私「こないだ買って来たパイナップル味のアイス食べる?」
娘「うん!」
私「一口ちょうだいね。」味見した後、「お先に頂きました。はい、どうぞ。」
娘「もう食べたの?」
私「そうですけど。」
娘も私も、笑ってしまいました。皆さんも、わかりますか?

「もう食べたの?」「そうですけど。」

もうも、そうも、そういう名前のアイスがあるんです。これは爽(そう)を食べた時の話です。
「もう (MOWモウ・森永乳業)食べたの?」
「そう (爽・ロッテ)ですけど。」
自然な会話だったのですが、落語か漫才のネタみたいに落ちが付きまして、おもわず2人で笑ってしまいました。美味しいアイスを食べながら、楽しい言葉あそびに大笑いをして、とても幸せなひとときでした。

「そうですけど。」の「けど」

この「けど」という語尾について、私は、奥深くて面白いと感じています。
「そうです。」「そうですよ。」「そうですから。」「そうでしょ。」でも意味は同じですが、ニュアンスが少し変わりますよね。「そうですけど。」は言い切っていながらも、ぼかした雰囲気のまま話が終わりにできます。また、「そうでした〜。」と種明かし的な言い方でも笑えたかも知れませんが、「そうですけど。」がお笑いとしては一番しっくりくると思いませんか?
お笑い芸人ではなく司会者なんですけどね…
普段から、頭の中で、この言葉の語源てなんだろうとか調べたり、韻を踏む言葉を探したり、言葉あそびを考えるのが好きなんです。

「けど」は、もともと文と文をつなぐ言葉。

「けど」で終わっている文には続きがあります。どちらかといえば、続いている文の意図の方が本意であるといえるでしょう。その後に続く言葉を「けど」で言い止して(いいさして)いるのです。察して下さいという気持ちもあるでしょう。いかにも日本人らしい表現だと思います。いったいどんな気持ちで、どんな言葉を飲み込んでいるのでしょうか?

「けど」は優しさ?遠慮?配慮?

言いにくい真実を伝えなくてはいけない場面では、相手が傷つかないように配慮をして、「けど」で断言を和らげることがよくあります。

そして、自分の意図を伝え、相手に自分の期待に応えてもらおうとする時にも「けど」で結びます。相手への遠慮の気持ちも表現しながら、一歩下がって相手を立てているように感じると思います。

また、「けど」をつけることで、自分の意見を言い切らず、曖昧にぼかして聞こえます。相手と衝突したくない、議論を戦わせたくないと言う気持ちも同時に伝わってきます。

逆に「○○だけど、なに?」と相手からきつく質問が返ってくる可能性もはらんでいることも、気を付けましょう。

「超ウケるんですけど〜。」は「やめて欲しいんですけど…」

使い方としては間違っていませんが、美しい日本語ではないです。ビジネスシーンでは、言語道断です。

また、どんな言葉も口癖のように頻繁に使うのはスマートではありません。「けど」という言葉には、優しさや思い遣りが隠れている反面、多用した場合には、自信がないように聞こえたり、距離を置きたいように感じたり、否定しかしてこない面倒くさい人と言う印象を与えてしまいます。言葉も適材適所。意味を理解して、大切に使って欲しいです。

「けど」を使いこなせたら、優しさや思い遣りをさりげなく伝えられるかっこいい大人になれると思いますけど… 

森藤りか