司会・ビジネスボイスPro講師 森藤 りか

コラム 声×言葉

コラムVol.9 『大丈夫?』2018年12月

コラムVol.9 『大丈夫?』2018年12月

クリスマスツリーやイルミネーションが煌めく季節になりました。
1年あっという間です。

お歳暮、年賀状、大掃除…新年を迎える準備、『大丈夫』ですか?

全然『大丈夫』じゃない私ですが、今日はこの『大丈夫』と言う言葉について書いてみたいと思います。

多用される『大丈夫』という言葉

ある日、駅へ向かう途中、ウインドブレーカーを着た若い方に割引券ですとチラシを渡され、『大丈夫です。(遠慮します。)』と断りました。

コンビニに入り、『ポイントカードは大丈夫ですか?(お持ちですか?)』と尋ねられ、小銭とカードを渡しました。『レシートは大丈夫ですか?(ご入り用ですか?)』と尋ねられ、『下さい。』と答えました。

電車に乗り、席に座るとご年配の方が横に立たれました。席を譲ろうと立ち上がって『どうぞ。』と言うと、『大丈夫です。(必要ありません。)』と断られました。

打合せのお客様を待っていると、遅れると連絡が入り、『大丈夫ですよ。(承知致しました。)』と答えました。

電話口で『今、お時間大丈夫でしょうか?(頂戴してもよろしいでしょうか?)』と尋ねられ、『はい。どうぞ。』と答えます。

意識して観察してみると、身の回りの色々な場面で、色々な言葉に取って代わって『大丈夫』がこれほどまで乱用されている事に驚きます。『大丈夫』だけでほとんどの会話が成り立ってしまうほどです。

日本語…『大丈夫か?!』(危険のない、安心できる様子)?!

『大丈夫』の落とし穴

かくいう私も『大丈夫』をよく使ってしまいます。どんな時にどんな心境で使っているのか、振り返ってみました。
『大丈夫』?と聞かれたら、『大丈夫』です。と答えます。その『大丈夫』具合によって声のトーンや言い方が変わります。

  • ①何の不安も無い時は、間髪入れず、軽やかに明るい声で。
  • ②少しだけ分からないところは有るけれど概ね自信を持ってやれそうな時は、一息自分を鼓舞する間をおいて、あえて力強い声で。
  • ③不安だらけで何をどうして良いのか分からない時は、とりあえず何か返事をしておかないとと、口ごもる感じで弱々しい声で。

『大丈夫』と同じ言葉で返ってきた相手の心理には、これだけの差があります。
『大丈夫』と答える人の中には、相手を安心させたいという優しさも有れば、不安に感じている自分を悟られたくないというプライドも有ります。また、不安に思う気持ちを吹き飛ばして、自分はやれると思い込ませたいという自己暗示も有ります。

相手がどういう状況にいるのかよくわからない時、でも、何かしら悩んでいる様子を伺うのにも、『大丈夫』?を使って、漠然と様子を探ります。

『大丈夫』?…『大丈夫』です。
この会話だけでは、本質に辿り着くまでに時間がかかったり、誤解や思い違いが生じて、本質に辿り着けない事も有るかも知れません。

気をつけたいですね。

『大丈夫』の本来の意味は?そして語源は?

広辞苑第七版には、①(ダイジョウフとも)立派な男子。②しっかりしているさま。ごく堅固なさま。あぶなげのないさま。③間違いなく。たしかに。

大辞林第三版には、①(「だいじょうふ」とも)立派な男子。②危険や心配のないさま。まちがいがないさま。きわめて丈夫であるさま。非常にしっかりしているさま。③良い結果になることを信じ、それが確かであることを保証するさま。まちがいなく。たしかに。きっと。

明鏡国語辞典第2版には、①丈夫でしっかりしているさま。危なげがなく安心できるさま。問題ないと保証できるさま。確か。③(俗)相手の勧誘などを遠回しに拒否する語。結構。表現そんな気遣いはなくても問題ないの意から、主に若者が使う。危なげがない場面で使う用法で、本来は不適切。

3冊の辞書から引用させて頂きました。

さらに、語源を調べてみると、仏教用語から来ている事がわかりました。「丈(じょう)」は中国に由来した長さの単位で、元々は成人男性の身長約1.7メートルを基準に定められました。「夫」は男性の意味で、「丈夫」は一人前の男と言う意味だそうです。

さらに、菩薩さまのことを表す言葉でもあるようです。調御丈夫(ちょうごじょうぶ)という仏さまの呼び名のひとつで、法を信じ修行をすすめていくと大丈夫の名号(みょうごう)を得られると、華厳経に書かれているそうです。

立派な語源で、とても壮大な言葉なんですね。そもそもスケールの大きい言葉だから、だんだんと広く色んな意味を内包できてしまったのかも知れません。

そして、慮り、忖度し、思い遣ることの多い日本人だからこそ、やんわりと気持ちを伝えやすいこの言葉が、とても便利だったのだと思います。

ただ、どういう意味でその言葉を使っているのか、また正しくは何と言うのかを忘れないで欲しいとも思います。本来の日本語を大切にきちんと後世へと受け継いでいきたいです。

森藤りか